かかれもの(改訂版)

本や写真、現代思想の点綴とした覚書

2019-01-01から1年間の記事一覧

『第二の手、または引用の作業』引用の系譜学

シークェンスⅢ、シークェンスⅣ、シークェンスⅤより。 コンパニョンは引用の記号的関係性(シークェンスⅡ)から導かれる四つの構造的な関係について、系譜学的に説明します。 引用の機能と形式 系譜学の区画 引用の系譜 引用の前史 古代の修辞学 絶頂 神学デ…

『第二の手、または引用の作業』意味と外示

記号、語が引用されることによって生じる意味と外示の変化について、アントワーヌ・コンパニョンはこのように整理しました。 引用«t»と言い換えt'においては、報告される語tの〈何か〉が失われる。引用と言い換えにおいては、語tの外示が失われる。しかし、…

『第二の手、または引用の作業』引用の記号学

シークェンスⅡ基本構造―引用の記号学より。 コンパニョンは引用の記号学的水準について、パースの記号論を参照しながら仔細に検討します。本章にて「引用」の記号的関係性を明白にします。 引用の基本図式 まずコンパニョンによる引用の基本図式を理解する必…

バトモロジー(言説測深学、段階論)/テクストの深さ

ロラン・バルトはテクストの在り方に一つの学問分野「バトモロジー*1」を想像しました。ギリシャ語の βαθμός (段階、程度、ステップ)に接尾語の -logie (学)を付けた自身による造語です*2。日本語では言説測深学*3あるいは、段階論*4と訳されています。 …

『第二の手、または引用の作業』相互注釈への案内文

『第二の手、または引用の作業』(アントワーヌ・コンパニョン)は、第三期課程博士論文を底に刊行された、著者最初期の作品です。1979年にスイユ社(仏)から出版され、本邦では2010年に水声社「叢書言語の政治」の一冊として翻訳出版されました。 文学理論…

作者の復活

コンピュータの登場によって、作者の役割が書物-外へ移行することについての覚書。あるいは予感。 インターネットと構造主義 インターネットと構造主義の有縁性については幾度となく指摘されてきました*1。ヴァネヴァー・ブッシュの連想システム(メメックス…

〈引用窓〉によるトランスクルージョン

複合文書の論理は単純である。文書の所有権の概念に基づいているのだ。文書にはすべて所有者がいる。所有者以外の誰も修正できなければ、この文書の一体性は保持される。 しかし、所有者以外でも好きなだけそこから引用して別の文書をつくることはできる。こ…

Trace Graph/書物の痕跡

TraceGraph - Chrome Web Store TraceGraph – Firefox (ja) 向け拡張機能を入手 エクリチュールは、読まれると同時に書かれるものです。私たちは下線を引き、抹消線を引き、マークし、余白に書くことで書物に触れてきました。 今や私たちは超テキスト的な注…

相互テクスト性としての「引用」

相互テクスト性の範疇である引用 citation について。まずはジュネットの定義から。 相互テクスト性 intertextualité 第一のテクスト的超越性。 ジュリア・クリステヴァが探求した間テクスト性と同一の用語であり、範例として扱っている。但しジュネット独自…

テッド・ネルソンのハイパーテクスト

「ハイパーテクスト」という言葉が生まれ、すでに半世紀以上が経過しました。コンピュータの先駆者達が夢見ていた世界は訪れたのでしょうか。 1965年、テッド・ネルソン(Theodor Holm Nelson)は、「Complex information processing: a file structure for …

ジェラール・ジュネット(Gérard Genette)

ジェラール・ジュネット(Gérard Genette、1930年6月7日 - 2018年5月11日)フランスの文学理論家。詩学、記号論に関する著作多数。 生涯 パリ生まれ。ENS(パリ師範学校)でジャック・デリダと同窓。 1948年から1956年までフランスの共産党員。 1963年にソル…

異様なほど細心な画家

言葉で何かを表すことに、一種のためらいを感じることがあります。言葉を尽くしてもそれが精確に描写されることはないだろう、と逡巡するのです。そこにあるのは崇高さでしょうか、卑小さでしょうか。 クロード・レヴィ=ストロースはブラジルでのフィールド…

重なった眼

dubble dubbleは、自分の写真と、世界の誰かの写真を多重露光するアプリです。決してカメラ揺籃期とは言えない現代において、多重露光(フォトモンタージュ)という遊戯は何を意味するのでしょう。未だ、偶然性がもたらす「おかしみ」の中に私達は生きていま…

『パランプセスト : 第二次の文学』関係性の読書への誘い

『パランプセスト : 第二次の文学』(ジェラール・ジュネット)*1は、超テクスト性三部作の第二作目に位置付けられます。ジュネットの手によって結実した文学理論の成果と言えるでしょう。80章からなるこの浩瀚な書物では、テクストの変形・模倣という(あま…