かかれもの(改訂版)

本や写真、現代思想の点綴とした覚書

「As We May Think」Chapter7

 以上述べた全ては従来から存在しており、ただ現在の装置や機械を未来に延長したものにすぎない。とはいえ、それは連想索引法への直接の手がかりを与えてくれる。連想索引法の基本的なアイデアは、どんな事項からでも他の望みの事項を、瞬時かつ自動的に選択するようにできる、という点にある。重要なのは二つの事項をむすびつける過程なのだ。
 ユーザが事項間をむすぶ検索経路を作るときには、その経路に名前をつけてコード表に挿入し、キーボードをたたく。目の前の隣り合った画面に、結合される二つの事項の内容が映し出される。各々の下部に空白のコード記入用の欄が幾つかあり、各々そのうちの一つを指すようにポインタがセットされる。キーを一つたたけば、両事項は永久に結合され、それぞれのコード記入欄にはコード名称が現れる。コード記入欄には、肉眼では見えないが、光電管で読み取るための一組の点群が書き込まれる。すなわち事項ごとに、これらの点群の位置によって相手の事項の索引番号が指示されるわけだ。
 以後はいつでも、こうした事項の一つを映し出しているときに、ただ対応するコード欄の下のボタンを押すだけで、もう一つの事項を即座に呼び出すことができる。さらに、多数の事項が結合されて、一つの検索経路を作っている場合には、本のページをめくるときと同様にレバーを動かして、緩急自在に、それらの事項を次々に眺めていくことができる、これはあたかも、広く散らばった情報源から事項群を物理的に集めて、新しい本を作るようなものである。いや、むしろ新しい本というより、どの事項も多数の検索経路に含まれうるので、それ以上のものといえるのだ。
 いま、メメックスの持ち主であるユーザが、弓矢の起源と特性に興味があるとしてみよう。とりわけ、トルコの短弓が英国の長弓より十字軍の戦闘においてなぜ圧倒的に優れていたのか、という理由について研究しているとする。メメックスのなかには、関連のありそうな書籍や論文が何十件も入っている。ユーザはまず、百科事典を全般に渉猟し、概略を述べた興味深い事項を見つけて、それを映し出しておく。次いで、歴史書のなかから関連事項を拾い出し、両者を結合する。このようにして、たくさんの事項を連結した検索経路を形成していく。ときおり、自分のコメントを書き込んで、それをおもな検索経路に直接むすびつけたり、特定の事項に関する分岐した検索経路に追加したりする。弓には利用しうる素材の弾性という性質が大いに関係したということが明らかになると、脇の検索経路に分岐し、弾性に関する教科書や物理定数を参照していく。そして、自分自身による分析結果を記したページを挿入する。このようにしてユーザは、利用できる資料の迷路のなかに、自分の興味のあるものの検索経路を作り上げるのだ。
 そしてこの検索経路は消滅することはない。何年か後に、ユーザが友人と語り合っているとき、「人間は生死に関わる事柄でさえ、技術革新に抵抗するものだ」という、ヒトの奇妙な性向に話題が向くとしよう。事実、ヨーロッパ人は射程距離で劣っていたにもかかわらずトルコの短弓を採用しなかった、という実例があるのだ。ユーザは実際に、そのことについての事項の検索経路をもっているのである、キーを一回たたくだけでコード表が現れる。数回キーをたたけば、検索経路の先頭が映し出される。レバーを使って、その検索経路上を、関心のある事項のところで止まったり、脇道に入ったりしながら、思いのままに進むことができる。これは興味深い検索経路であって、議論に関連があるのだ。そこでユーザは複製装置を始動させ、全検索経路を写真に撮り、友人自身のメメックスに挿入するようにそれを手渡す。こうして、その検索経路はさらに一般的な検索経路へと結合されていくのである。
 
p84-85「われわれが思考するごとく」ヴァネヴァー・ブッシュ『思想としてのパソコン』西垣通

 以上のことは、従来のやり方と何ら変わったところはない。今日手に入る機械装置と電気製品を将来に向かって延長しただけのことだ。しかし、それは連想索引法への直接のステップでもある。どんな項目でも、望めば瞬時にかつ自動的に別の項目を選択するようにできるというのがその基本アイデアだ。これがメメックスの本質的な機能だ。ふたつの項目を結ぶというのは重要なことなのだ。

 ユーザが項目から項目への道筋をつくろうとするときには、それに名前を付けてコード表に挿入し、キーボードを叩く。目の前に結合されるべきふたつの項目が現れ、隣合わせの位置に映し出される。画面の下のほうに空白のコード欄が多数あり、そのうちのひとつを指し示すポインタが各々に用意されている。ユーザーがキーをひとつ叩けば、各項目が永久的に結合される。コード欄には、コード・ワードが現れる。目には見えないが、光電管で読み取るためのドット一式が同時にコード欄に挿入される。このドットが各々の項目から相手の項目を指し示すインデックスになっているのだ。
 それ以後はいつでも、項目のひとつが映し出されていれば、対応するコード欄の下のボタンを叩くだけでもう一方の項目を呼び出すことができる。さらに、多数の項目が道筋を立てるために結合されていれば、本のページをめくる時の要領でレバーを操作して、速くまたはゆっくりと順番にながめることができる。
 まるで、広い範囲の別々の出典からよせ集められたいろいろな項目をまとめて一冊の新しい本をつくったようなものだ。いや、実はそれ以上のことができるのだ。
 どんな項目でも、多数の道筋に結合できるのだから。

 メメックスの持ち主が、弓矢の起源とその性質に関心があったとしてみよう。
 なぜ十字軍の小ぜり合いで、短いトルコ式の弓のほうが英国式の長い弓よりも優れていたかを研究しているとしよう。彼は、関連する書籍や論文などをメメックスに何冊も保存している。まず、百科事典を取り出して全体をながめ、興味深いおおまかな記述を見つけ出して画面に映し出しておく。次に歴史のなかから関連のある項目を見つけ出し、上のものと結び付ける。このようにして、多数の項目の間のつながりをつくっていく。時たま、自分のコメントを挿入して、おもな道筋につなげるか、特定の項目の横道の道筋につなぐ。手に入る材料の弾力性と弓の間に深い関係があることが明らかになれば、彼は横道にそれて、弾性に関する教科書や物理定数表を巡り歩くことになる。そこで自分が分析した内容を手書きで挿入する。こうして彼は、手に入る資料の迷路のなかを行ったり来たりして彼自身の関心事の道筋を立てていくのである。

 このユーザーの立てた道筋は消えない。数年後、彼の友人との会話は「奇妙なことに、人々は重要で興味のあることがらであっても革新を拒むことがある」という話題に及ぶ。彼は例を知っている。より大きな射程距離の弓矢をもっていたヨーロッパ人はトルコ式の弓の導入に失敗したという事実である。実際、彼はこの事実に関連する道筋をもっている。ひとつキーを叩けばコード表が出てくる。ふたつ、三つ叩けば道筋の冒頭が映し出される。レバーを使えば関心のある項目で止まったり横道にそれたり、意志どおりに道筋を動き回ることができる。
 この道筋は興味深いもので、この議論と関連がある。そこで彼は再生装置を起動させて道筋全体を写真に撮り、友人に渡す。友人は自分のメメックスにそれを挿入し、さらに一般的な道筋と結合していくことになる。

 

p126-128「思うがままに」ヴァネヴァー・ブッシュ『リテラリー・マシン』テッド・ネルソン著、竹内有雄・斉藤康己訳

All this is conventional, except for the projection forward of present-day mechanisms and gadgetry. It affords an immediate step, however, to associative indexing, the basic idea of which is a provision whereby any item may be caused at will to select immediately and automatically another. This is the essential feature of the memex. The process of tying two items together is the important thing.

When the user is building a trail, he names it, inserts the name in his code book, and taps it out on his keyboard. Before him are the two items to be joined, projected onto adjacent viewing positions. At the bottom of each there are a number of blank code spaces, and a pointer is set to indicate one of these on each item. The user taps a single key, and the items are permanently joined. In each code space appears the code word. Out of view, but also in the code space, is inserted a set of dots for photocell viewing; and on each item these dots by their positions designate the index number of the other item.

Thereafter, at any time, when one of these items is in view, the other can be instantly recalled merely by tapping a button below the corresponding code space. Moreover, when numerous items have been thus joined together to form a trail, they can be reviewed in turn, rapidly or slowly, by deflecting a lever like that used for turning the pages of a book. It is exactly as though the physical items had been gathered together from widely separated sources and bound together to form a new book. It is more than this, for any item can be joined into numerous trails.

The owner of the memex, let us say, is interested in the origin and properties of the bow and arrow. Specifically he is studying why the short Turkish bow was apparently superior to the English long bow in the skirmishes of the Crusades. He has dozens of possibly pertinent books and articles in his memex. First he runs through an encyclopedia, finds an interesting but sketchy article, leaves it projected. Next, in a history, he finds another pertinent item, and ties the two together. Thus he goes, building a trail of many items. Occasionally he inserts a comment of his own, either linking it into the main trail or joining it by a side trail to a particular item. When it becomes evident that the elastic properties of available materials had a great deal to do with the bow, he branches off on a side trail which takes him through textbooks on elasticity and tables of physical constants. He inserts a page of longhand analysis of his own. Thus he builds a trail of his interest through the maze of materials available to him.

And his trails do not fade. Several years later, his talk with a friend turns to the queer ways in which a people resist innovations, even of vital interest. He has an example, in the fact that the outranged Europeans still failed to adopt the Turkish bow. In fact he has a trail on it. A touch brings up the code book. Tapping a few keys projects the head of the trail. A lever runs through it at will, stopping at interesting items, going off on side excursions. It is an interesting trail, pertinent to the discussion. So he sets a reproducer in action, photographs the whole trail out, and passes it to his friend for insertion in his own memex, there to be linked into the more general trail.

 

Vannevar Bush, 

As We May Think - The Atlantic

 

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