かかれもの(改訂版)

本や写真、現代思想の点綴とした覚書

ハイパーメディアコミュニケーションの修辞術

グンナー・リーストルはハイパーメディア上のコミュニケーションの特徴を修辞学との比喩で説明しました。 ハイパーメディアコミュニケーションの修辞術 この表はロラン・バルトが『旧修辞学 便覧』で示した修辞学の規範的な区分を拡張したものです*1。 修辞…

文学空間逍遥

一冊の書物は、流星だ。散り散りになって、幾千の隕石と化す流星だ。その隕石たちのあてどない流れに挑発され、あらたな書物たちが衝突し、再開し、にわかに凝固し、未刊の形質たちは思い思いの線を描き、増補版や改訂版、改正版といった諸々の版が繰り出さ…

HATEOASとは何か

RESTにおけるHATEOAS それは、REST(REpresentational State Transfer)における、統一インターフェースの一つです*1。 統一インターフェース(Uniform Interface) リソースの識別(identification of resources) 表現によるリソースの操作(manipulation …

続・スイユ/パラ書物の一覧表

パラ書物 『スイユ』(ジェラール・ジュネット)は特定の地域(フランス)、特定の時期(20世紀)における書物の共時的な分析の集成です。「パラテクスト(準テクスト)」というキーワードに導かれ、テクストに対する制御(水門、玄関)や、内と外を繋ぐ境界…

「As We May Think」Chapter7

以上述べた全ては従来から存在しており、ただ現在の装置や機械を未来に延長したものにすぎない。とはいえ、それは連想索引法への直接の手がかりを与えてくれる。連想索引法の基本的なアイデアは、どんな事項からでも他の望みの事項を、瞬時かつ自動的に選択…

ヴァネヴァー・ブッシュ「As We May Think」

AS WE MAY THINK 1945 JULY 原著「As We May Think」*1 ヴァネヴァー・ブッシュの「As We May Think」が掲載された雑誌は2種類存在する。『アトランティック・マンスリー』版と『ライフ』版である。 『アトランティック・マンスリー』版「As We May Think」 …

書誌におけるパラテクスト/ジュネットの『スイユ』について

『スイユ』における不完全なパラテクスト一覧表 ジュラール・ジュネットは超テクスト性の一タイプ「パラテクスト」について、『スイユ : テクストから書物へ』に集成しました。同書はパラテクストの一覧表を作ることを目指したとされるものの、実際にはその…

中世における書き手の四分類/電子テクスト時代における新たな著述のスタイル

電子テクスト時代における、著述のスタイルについて考えることがあります。 誰もが作者として振る舞うことによって、ごく無意味なもの、無能なもの、最悪のものがWebの空間を塞ぎ、麻痺させ、妨害してしまうのではないか。たとえそうだったとしても、最良の…

『スイユ : テクストから書物へ』/パラテクストに注意!

Para-という接頭辞は、近接と距離を、類似と差異を、内部と外部を同時に意味する二重の対照的な接頭辞である(……)それは、境界、敷居、あるいは余白のこちら側であると同時に向こう側でもあり、境位の点では対等でありながらやはり二次的、あるいは補助的、…

Webの地図を描くことについて

HC SVNT DRACONES このWebという空間は未だ身体的に捉え難い空間です。あらゆる地点へ繋がったリンク、交通網が張り巡らされた都市のなかで、私はどこに向かっているのでしょうか。物理的な空間から開放されたことで、あちこちに移動できる手段を獲得したつ…

ブクログの地図案内

ブクログの地図 Booklog graph(https://booklog-graph.web.app/) Web本棚サイト「ブクログ」の地図を描いてみました。IDの検索機能で自分の本棚の位置を知ることができます*1。動作確認はChromeのみです。 全体 拡大 地図を読む せっかく地図を描いたので、…

「来るべき書物について」図書館の未来

1997年3月20日、フランス国立図書館 デリダは「来るべき書物について」という題で書物の未来について語りました。私たちにとって書物とは何か、図書館にとって書物とは何か、電子技術にとって書物とは何か。デリダ晩年の平易な語り口が残されています。 今私…

TraceGraph1.0/Webブラウザの拡張機能に関する問題

普段より長めのGW期間を利用して、ブラウザ拡張機能に手を加えました。当初思い描いていた機能が実現し、これをTraceGraphバージョン1.0としてリリース致しました。 どこからどこへ巡ったかというWebアクセスのグラフ化のみならず、登録ユーザ同士でのグラフ…

バベルの電子図書館

オンライン版「バベルの図書館」が公開されました。「バベルの図書館」とは、ホルヘ・ルイス・ボルヘスが想像した、あらゆる書物が収められている完全無欠な書物空間です。 library of babel The Library of Babel is a place for scholars to do research, …

『第二の手、または引用の作業』引用の系譜学

シークェンスⅢ、シークェンスⅣ、シークェンスⅤより。 コンパニョンは引用の記号的関係性(シークェンスⅡ)から導かれる四つの構造的な関係について、系譜学的に説明します。 引用の機能と形式 系譜学の区画 引用の系譜 引用の前史 古代の修辞学 絶頂 神学デ…

『第二の手、または引用の作業』意味と外示

記号、語が引用されることによって生じる意味と外示の変化について、アントワーヌ・コンパニョンはこのように整理しました。 引用«t»と言い換えt'においては、報告される語tの〈何か〉が失われる。引用と言い換えにおいては、語tの外示が失われる。しかし、…

『第二の手、または引用の作業』引用の記号学

シークェンスⅡ基本構造―引用の記号学より。 コンパニョンは引用の記号学的水準について、パースの記号論を参照しながら仔細に検討します。本章にて「引用」の記号的関係性を明白にします。 引用の基本図式 まずコンパニョンによる引用の基本図式を理解する必…

バトモロジー(言説測深学、段階論)/テクストの深さ

ロラン・バルトはテクストの在り方に一つの学問分野「バトモロジー*1」を想像しました。ギリシャ語の βαθμός (段階、程度、ステップ)に接尾語の -logie (学)を付けた自身による造語です*2。日本語では言説測深学*3あるいは、段階論*4と訳されています。 …

『第二の手、または引用の作業』相互注釈への案内文

『第二の手、または引用の作業』(アントワーヌ・コンパニョン)は、第三期課程博士論文を底に刊行された、著者最初期の作品です。1979年にスイユ社(仏)から出版され、本邦では2010年に水声社「叢書言語の政治」の一冊として翻訳出版されました。 文学理論…

作者の復活

コンピュータの登場によって、作者の役割が書物-外へ移行することについての覚書。あるいは予感。 インターネットと構造主義 インターネットと構造主義の有縁性については幾度となく指摘されてきました*1。ヴァネヴァー・ブッシュの連想システム(メメックス…

〈引用窓〉によるトランスクルージョン

複合文書の論理は単純である。文書の所有権の概念に基づいているのだ。文書にはすべて所有者がいる。所有者以外の誰も修正できなければ、この文書の一体性は保持される。 しかし、所有者以外でも好きなだけそこから引用して別の文書をつくることはできる。こ…

Trace Graph/書物の痕跡

TraceGraph - Chrome Web Store TraceGraph – Firefox (ja) 向け拡張機能を入手 エクリチュールは、読まれると同時に書かれるものです。私たちは下線を引き、抹消線を引き、マークし、余白に書くことで書物に触れてきました。 今や私たちは超テキスト的な注…

相互テクスト性としての「引用」

相互テクスト性の範疇である引用 citation について。まずはジュネットの定義から。 相互テクスト性 intertextualité 第一のテクスト的超越性。 ジュリア・クリステヴァが探求した間テクスト性と同一の用語であり、範例として扱っている。但しジュネット独自…

テッド・ネルソンのハイパーテクスト

「ハイパーテクスト」という言葉が生まれ、すでに半世紀以上が経過しました。コンピュータの先駆者達が夢見ていた世界は訪れたのでしょうか。 1965年、テッド・ネルソン(Theodor Holm Nelson)は、「Complex information processing: a file structure for …

ジェラール・ジュネット(Gérard Genette)

ジェラール・ジュネット(Gérard Genette、1930年6月7日 - 2018年5月11日)フランスの文学理論家。詩学、記号論に関する著作多数。 生涯 パリ生まれ。ENS(パリ師範学校)でジャック・デリダと同窓。 1948年から1956年までフランスの共産党員。 1963年にソル…

異様なほど細心な画家

言葉で何かを表すことに、一種のためらいを感じることがあります。言葉を尽くしてもそれが精確に描写されることはないだろう、と逡巡するのです。そこにあるのは崇高さでしょうか、卑小さでしょうか。 クロード・レヴィ=ストロースはブラジルでのフィールド…

重なった眼

dubble dubbleは、自分の写真と、世界の誰かの写真を多重露光するアプリです。決してカメラ揺籃期とは言えない現代において、多重露光(フォトモンタージュ)という遊戯は何を意味するのでしょう。未だ、偶然性がもたらす「おかしみ」の中に私達は生きていま…

『パランプセスト : 第二次の文学』関係性の読書への誘い

『パランプセスト : 第二次の文学』(ジェラール・ジュネット)*1は、超テクスト性三部作の第二作目に位置付けられます。ジュネットの手によって結実した文学理論の成果と言えるでしょう。80章からなるこの浩瀚な書物では、テクストの変形・模倣という(あま…

『ディアーナの水浴』失われたかがやきを求めて

『ディアーナの水浴』はピエール・クロソウスキー(Pierre Klossowski)によって著された、神話に関する注釈書です。 クロソウスキーは「ディアーナの水浴」の神話が後年の解釈によって戯画化、あるいは通俗化されてしまったといいます。この出来事は単なる…

続・枯尾花の時代

テクストにも枯尾花の時代*1があるのでしょうか。たとえそんな時代でも、私はテクストの幽霊を見続けていたいのです。 近親相姦的な料理本の世界では、盗作という概念は存在しないらしい。新たにローズマリーの小枝でもそろえれば、そのレシピは自分のものに…