「ハイパーテクスト」という言葉が生まれ、すでに半世紀以上が経過しました。コンピュータの先駆者達が夢見ていた世界は訪れたのでしょうか。
1965年、テッド・ネルソン(Theodor Holm Nelson)は、「Complex information processing: a file structure for the complex, the changing and the indeterminate」(複雑で、変化を続ける、非定型な情報のためのファイル構造)で「ハイパーテクスト」という言葉を世に送り出しました*1。一見して単なるファイル構造に関するコンピュータサイエンス的な考察に見えますが、ここにはザナドゥの萌芽があります。
言い換えれば、ここには新たな「本」の概念が提示されています。グーテンベルク以降、文字の受容は単線的(直線的)になりました。書物には始まりがあり、終わりがあるという見方が作られたのです。テッド・ネルソンはこの従来の書物の在り方をアップデートさせる手段の一つとして「ハイパーテクスト」を生み出したとも言えます。そもそもテクストは単線的なものではなく、様々な異文・バージョンから構成されていて、それはまさにコンピュータで表現可能なはずだ、と。
その後、テッド・ネルソンは「Project Xanadu」(ザナドゥ計画)に奔走することになります。その中間報告(完成報告?)とも言えるのが「Literary Machines」(『リテラリーマシン : ハイパーテキスト原論』1994年,アスキー)です*2。1993年に刊行された本書は、ザナドゥの完成が目前に迫っている、という華々しい報告と共にザナドゥの革新性が強調されています。テッド・ネルソンは今日のコンピュータの在り方(バラバラにしか扱えない情報、凝り固まったファイル構造)について強く批判します。
1997年には「The Future of Information」を著します。ここでテッド・ネルソンは新たに「トランスクルージョン」の概念を提示します。未邦訳ですが、原文についてはWebで入手することができます。
カット&ペースト、そしてコラージュ。どうしてこんなに簡単なことがコンピュータで実現できないのでしょうか。ネッド・ネルソンの描いたハイパーテキストの思想、そして、それに底流している本の思想はどこへ行ってしまったのでしょうか。
Real cut and paste-- STILL NEEDED BY WRITERS !
コンピュータは本の在り方を脇に置いて、文字の在り方に固執してきました。様々な要素の複合体である「本」を直視しないことによって、コンピュータを躍進させたのです。しかし、目を逸らしてきたことによる負債は年々増しています。
情報の未来、すなわち新たな本の在り方を再考する時代は常に既に訪れています。来たるべき新たな本は本当に電子書籍なのでしょうか?
リンク
- 作者: テッドネルソン,Theodor Holm Nelson
- 出版社/メーカー: アスキー
- 発売日: 1994/10
- メディア: 単行本
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