かかれもの(改訂版)

本や写真、現代思想の点綴とした覚書

続・スイユ/パラ書物の一覧表

パラ書物

 『スイユ』(ジェラール・ジュネット)は特定の地域(フランス)、特定の時期(20世紀)における書物の共時的な分析の集成です。「パラテクスト(準テクスト)」というキーワードに導かれ、テクストに対する制御(水門、玄関)や、内と外を繋ぐ境界面といった書物周辺が仔細に分類されていきます。これらは要するにテクストと読者を繋ぐための段階論的テクストの考察でした。これに接ぎ木するならば、ジュネット自身が示唆したように、通時性の軸を加えることや、より一般化した共時性へ拡充することに主眼があてられそうです。

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 この分析の延長線上に置かれる作業の一つは、書物の内と外に境界線を引くことです。ここから想定されるのが「パラ書物」という、書物と読者を繋げるための段階論的書物です。この超書物的な関係を図で表すとこのように表すことができます。

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 パラ書物が対象とするのは本の内容ではありません。分類可能な書物周辺であるビブリオテーク(本の置き場、書物を安定的に配置する場)を対象とした分析です。パラ書物は、書物がいかにして書店に並べられるか、読者がいかにして書物を手に入れるか、という問いに繋がります*1

支持体

 テクストそれ自体が自立できないように、書物それ自体も自立することはできません。テクストに良き友としての写字生と装丁が必要なように、書物には配達人と建物が必要です。書物が安定的であるための条件、それは「支持体」が盤石であることです。

 例えば、書店が存在することによって私たちは望んだ書物を手にすることがでます(このとき書店は書物にとっての支持体です)。そのとき私たちは、本棚に整然と並んだ背表紙から選ぶことができます(本棚という支持体があるからに他なりません)。支持体の存在はしばしば透明で、私達はこのようなパラ書物が与える「価値」について往々にして忘れてしまっています。あるいは単に知らないこともあるはずです。

パラ書物の一覧表

 パラ書物の一覧を試みましょう。ジュネットが行き当たった問題同様、特定の地域、時代、文化に依存する以上、完全さは諦めるしかありません*2。しかし、書物周辺の変化が私達に及ぼす影響が計り知れないものであるならば、本との出会いがどのようにして起こるかについて、私達は常に再考すべきでしょう。

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*1:その先に人文主義的な〈書物〉が想定されます

*2:ジュネットはパラテクスト=ペリテクスト+エピテクストという公準を導入しましたが、電子テクストが一般化した現代においては、超克された感があります。固定化した書物は解かれ、再び写本時代のように「読むこと=書くこと」へ変化しています