かかれもの(改訂版)

本や写真、現代思想の点綴とした覚書

TraceGraph1.0/Webブラウザの拡張機能に関する問題

 普段より長めのGW期間を利用して、ブラウザ拡張機能に手を加えました。当初思い描いていた機能が実現し、これをTraceGraphバージョン1.0としてリリース致しました。

 どこからどこへ巡ったかというWebアクセスのグラフ化のみならず、登録ユーザ同士でのグラフ共有が可能です。仮にコミュニティができれば巨大な白昼夢が見られることでしょう。

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TraceGraph1.0

chrome.google.com

 さて、ここ最近のChromeブラウザ拡張機能の界隈は荒れています。不正な手段による個人情報取得に関する問題は各種メディアによって取り上げられましたが、開発者に対する過剰な技術的制約や不適当な対応については一般には知られていない問題です。これらを一律に対処することができないのは、Googleが一企業、しかも広告企業であること。多大なユーザを抱えていること、そしてその多くが生活レベル、事業レベルでGoogleに依存してしまっていることに無関係ではありません。ここでは開発者が置かれている状況について少し紹介しましょう。

 まず、Googleはブラウザ拡張機能の権限を抑えることを宣言しています。

Migrating to Manifest V3 - Google Chrome

  2019年末にはManifest(アプリケーションに関する仕様)の新たなバージョンをプレビュー版として公開しました。2020年の早い時期には公式リリースすると発表しています。このバージョン改定で注目されているのがwebRequestAPIに関する変更です。webRequestAPIはブラウザを経由したネットワークの通信内容にアクセスし、場合によっては一部書き換えることができる手段の一つです。

 webRequestは非常に人気のあるAPIで、広告ブロッカーで多用される機能の一つです。これによって悪意のある広告や宣伝で満たされた「うるさい」Webの世界に静寂をもたらすことに貢献しています。その一方で、ユーザの見えない場所で秘密裏に情報を抜き取ることができる機能を含んでいることから、本家に目を付けられてしまいました。

 というのは半分建前で、やはり広告企業として自らの収入源でもある広告を制限しようとする動きを退けているのでしょう。この点、広告ブロッカーを利用している一般ユーザが今後何らかの影響を被ることは避けられないはずです(外の世界はこんなにもうるさくなっていたのかと)。この問題について、Firefoxを展開するMozillaは逆の立場を表明しています。

GoogleのExrtension Manifest V3ドラフトに対して、Mozillaが既存の広告ブロッカのサポート継続を表明

 MicrosoftでさえIEを捨てChromiumベースにした移行したWeb標準の時流の中、Mozillaの対抗姿勢はいつまで続けることができるのでしょうか。Manifestを巡る、FirefoxChrome(あるいは開発者とベンダ)の対立によって、Webにおける各々の思想、その問題の本質が少しでも多くの人に知られることを願います*1

 もう一点、拡張機能に関する問題は開発者への不適当な対応です。人気の拡張機能Pushbulletが先日ある記事を公開しました。

blog.pushbullet.com

 読んで字の通りですが、Googleから14日後に拡張機能を削除するという連絡が来たという記事です*2。「アプリの権限が強すぎる」という旨だったため、Pushbullet側は当該の対応をしたものの、結果はリジェクト、詳細は不明な状態だというのです。

 hacker newsでは開発者たちによる投稿がゆうに600を超えました。

Let's guess what Google requires in 14 days or they kill our extension | Hacker News

 ここでもまた問題の本質が錯綜していることが伺えます。発言の一部はこのようなものです

  • 指摘されたのは○○だ、それを直せばよい。リジェクトの何が問題なんだ
  • リジェクトの理由が全く分からない。そもそも人間が見ているのか?単純なルールなのか?(ルールを提示せよ)
  • 判断はAIがやってるんだから、リジェクトの理由なんてそもそも表せない(数字の羅列が返ってくるだけだ)
  • 申請して数日で通ることもあれば数ヶ月粘ることもある。この予想不可能性は致命的
  • Chromeのユーザの規模に対して拡張機能をチェックするメンバが少なすぎる
  • リジェクトを3回繰り返すとアカウントが停止される。Googleに依存している開発者は弱気にならざるえを得ない
  • 私は詳細不明のリジェクトでアカウントが停止された
  • 問い合わせのメールをしても自動返信のロボットとしか会話できない
  • Googleだ。特にChromeを辞めるのは簡単だ。Firefoxへ移行せよ
  • ユーザの個人情報の流出を防ぐのは当然だ。しかしGoogle自身はどうなんだ?

 その他議論は多岐に及んでいます。

 大規模なユーザを抱えたGoogleが(Appleのように)未必の故意を防ぐためにセキュリティを固くするのは、企業の姿勢として「正しい」のですが、その不透明性は無視できるものではありません。GoogleMicrosoftと同じ轍を踏んでしまうのではないかという懸念さえあります。

 

 Googleに非難めいた内容になってしまいましたが、私自身Webの未来に悲観しているわけではありません。国家ではなく企業、領土ではなくプラットフォーム。Webというこの広大な土地の分割はまだ始まったばかりなのですから。

recrits.hatenablog.com

 

*1:拡張機能の問題について独自に移行を済ませたAppleや、そもそもWebに対して別のアプローチをしているFacebookは、この成り行きを遠巻きに眺めていることでしょう。

*2:この宣告は「何らか」の条件で開発者へ届くようです。ランダムに選ばれているのでは?という話もあります。幸い私の手元に不幸の手紙は届いていません。