パラテクストの空間的体制
ジェラール・ジュネットは『スイユ』でテクストの輪郭をより鮮明にするために「パラテクスト」という概念装置を導入しました。パラテクストとは作者名、タイトル、献辞、エピグラフ、序文といった書物の本文を囲繞するテクストで、それらは著者と読者の間の水位を調整するための「水門」のような役割を果たすと述べました。
ジュネットはパラテクストの空間的な体制として、書物の中のテクストに物理的に付随しているものと、そうでないもので仕分けをしました。パラテクスト=ペリテクスト+エピテクストという定式です。

ペリテクストから、エピテクストを区別する公準は、原理的に、純粋に空間的なものである。同じ書物のなかのテクストに物質的に付随しておらず、潜在的には無制限の物理的かつ社会的空間のなかをいわば自由自在に流通しているあらゆるパラテクスト要素が、エピテクストなのだ。エピテクスト=書物ノ外ナラドコデモ。
「テクストから書物へ」という邦訳の副題が示唆している通り、『スイユ』では境界にあるテクストが、書物の成立に寄与するという議論を内包しています。そして、このテクストと書物の境界を際立たせているのが書物の外側にある「エピテクスト」です。

テクストの分析を核とするジュネットにとって、エピテクストは周縁的な存在です。書物のなかのテクストに物質的に付随していないテクストであり、通常は書物の構成物と見做されないテクストです――テクストに属しながらテクストの外にある――。
ジュネットの空間的な二分法が「物理的に付随しているか否か」という、テクストに固有ではない、空間的な判定基準であるとするなら、一般化された構造原理として扱うことができるはずです。また、そうすることでパラテクスト=ペリテクスト+エピテクストという定式はそのまま、「エピテクスト=書物ノ外」という一見矛盾したジュネットの表現を字面通りに解釈できるようになります。
テクストから書物へ、そして書物から書庫へ
ジュネットのparaという概念装置を足掛かりに、テクストと書物、そして書庫の関係性を精緻に図式化することができます。テクストに対するパラテクスト、書物に対するパラ書物、書庫に対するパラ書庫、その三者の空間的な体制です。

パラ書物(paralivre)
パラ書物については以前一覧をしたことがありますが、まだ分類は粗い状態でした。
ジュネットはポスターや広告、書評記事といった書物の外側を流通するテクストをエピテクストとしました。エピテクストは書物のなかのテクストに物質的に付随しておらず、また、一冊の書物を対象として論じられるものです。書評が論じるのはテクストの一節ではなく一冊の書物であり、著者のインタビューで語られるのも一冊の書物に対するものです。それは書物という単位を取り巻く空間——すなわちパラ書物の水準——に存在しています。
パラテクストはペリテクストとエピテクストから構成されていますが、エピテクストは、テクストの水準を超えた書物の水準に属していることから、パラ書物の一部として位置づけ直すことができます。これはジュネットの公準の中に潜在的に含まれていた水準の重なりについて、次元を増やして解きほぐす解釈です。
代表的なパラ書物はコレクションや叢書でしょう。誰かの意図によって集められた書物はそのコレクションの文脈において意味を生み出します。叢書は出版者がある意図を持ったシリーズとして書物を扱います。テクスト本文を書物を超えた位置から支えています。
パラ書庫(parabibliothèque)
ビブリオテーク(bibliothèque)とは本が秩序を持って並んでいる空間(本が物質的に安定して配置されている場所)を表します。それに対してパラビブリオテーク(parabibliothèque)とは何でしょうか。それは、司書や排架分類、棚の構成、開架閉架の管理といったビブリオテークの周辺にあるものです。それらは読者がまだ手に取っていないが、書庫のどこかにあるはずの書物に辿り着くための水門の役割を果たしています。
私たちはビブリオテークとパラビブリオテークの総体のことを、一般に「図書館」や「書店」と呼びます。
著者と読者の接近
テクストの水準においてパラテクストを生成する主体は著者でした(出版社や編集者はその一部を手伝っています)。しかし、テクストの水準を超えるとパラテクストを生成する主体が変化します。
書物の水準ではパラ書物を生成する主体として出版社や編集者が前景化します。また、一部の読者がパラ書物の生成に加わります。ジュネットの分類による「他者による非公式のエピテクスト;書評記事」です。
そして書庫の水準ではパラ書庫を生成する主体は、その蔵書の構成者――すなわち読者――の手に委ねられます。書庫の構成者はテクストの水準では読者でしたが、書庫の水準では著者として振る舞います。著者と読者の境界が揺らぎ、接近する場になります。
図書館の司書や書店の店主はパラ書庫を構成する役割を担っていますが、その最たるものは個人蔵書家でしょう。個人蔵書家の自らの読書経験に基づいて構成された本棚は、テクスト同士を接近させて文脈を短絡させる、「再び書かれた」存在です。